01東海12景。
■1.船場稲荷神社 
老杉が社殿をつつむ。 
稲荷社杉風(いなりしゃさんぷう)
老杉の立木は、
こんもりと社殿を囲み、
梢は風を鳴らしている。
深々とした静寂感があたりを包み、
神の啓示を待つかのようである。
■2.富士神社  
静かなところ  
冨士社晩霞(ふじしゃばんか)   
薄紫の霞が、
森巌の境内に漂い流れてくる夕べ。
人声稀に、
想いは悠久の神の代に遡る。
■3.石神城跡 
石神城春草(いしがみじょうしゅんそう)
古城、
何かを語る。
栄枯の夢を偲びつつ、
歩を移せば、
禅寺長松院と、
内宿溜が静穏な気配を漂わせている。
■4.願船寺  
晩鐘がひびく  
願船寺晩鐘(がんせんじばんしょう)  
晩鐘は韻々として野面を渡り、
遥か阿武隈の山波に消えて行く。
ひねもす働ける者の安らぎよ、
つつましき祈りよ。
■5.久慈川  
久慈川河口緑波(くじがわかこうりょくは)
久慈の清流は、
母なる大海に抱かれ、
打ち寄せる波は、
豊岡の松原の緑に映える。
遠く潮騒が太古の響きを伝えてくれる。


6.白方溜  
蛍がよみがえりつつある 
白方溜螢影(しらかたためけいえい)
植田宮の鳥居の倒影、
夏の宵の蛍の明滅。
たたずめば涼気が肌をうち、
さざ波立って、
再び水鏡の静けさを返える。
■7.阿漕ケ浦 
阿漕ヶ浦夜桜(あこぎがうらやおう)
闇の深さに匂いたつ、
爛漫たる夜桜。
万灯の輝きに、
微風の花びらを水面に散らすころ、
宴いよいよたけなわとなる。
■8.細浦 
江戸時代は満々たる水を湛えた湖だった 
田んぼが広がる 
細浦青畝(ほそうらせいほ)
広闊たる稲田の上を鳥影が掠める。
宗祗の詠めし天神山をわきに見て、
野坂をたどれば、
名も知らぬ小さき草の花々。


9.村松晴嵐 
白い砂と松 海まで少し歩く 
水戸八景 村松晴嵐  
村松晴嵐(むらまつせいらん)
朝陽は山気を立ち昇らせ、
遥かに白砂青松を見晴かす。
背に虚空蔵尊、
大神宮の床しい御堂。
■10.如意輪寺  
如意輪寺秋月(にょいりんじしゅうげつ)
月影はさやかに、
大イチョウの梢にかかり、
照沼の野は、
ふりそそぐ月光に冴え返る。
阿武隈は遠く、
黒き眠りのなかにある。
■11.真崎浦 
江戸時代は満々たる水を湛えた湖だった。
真崎浦夕照(まさきうらせきしょう)
落陽の厳かさよ、
壮大な朱金色の華やぎよ。
巨大な日輪は、
いまその終りの姿を
西丘の森のかげにし沈めようとしている。


12.住吉神社  
住吉社寒霜(すみよししゃかんそう)
清浄な参道にふりしいた白い朝霜のきびしさ。
凛乎とした冬の表情。
やがて開くヤブツバキが、
森かげに可憐なつぼみを膨らませる。