「昭和20年8月、水戸市長町」
相沢総子 73歳 水戸市在住。 

警報の発令と同時に、
父と弟と防空壕に身を潜めていた。
「早く逃げろ」
父の一言で壕から飛び出した。
南の空を見上げると
無数の焼夷弾が落ちてきた。
まるで火の付いたロウソクを逆にしたようだ。
太郎坂を下り、
八幡神社下の神明水のあたりまで、
無我夢中で走って逃げた。
しげみにうずくまっていると、
通りがかりの兵隊さんが
「そこに居たら危ない」と
溜池の近くの防空壕に連れて行ってくれ、
お陰で助かることができた。
夜が明け、
一面の焼け野原の中を、
家のあたりまで行ってみると、
何も残っていなかった。
逃げるとき
バラバラになってしまった家族が再会し、
お互いの無事をよろこんだ。 
しかし、
近所のYさん一家は
防空壕の中で焼け死んでしまった。
あの恐ろしさ、悲しさは、
何年経っても消えることはない。