繕われた足袋 滝田吉一 

おもとさんの家を訪ねた。 
5年ぶりにもなるだろうか。 
ご主人を亡くしてからすでに15年程になる。
たしか、すでに80歳をいくつか過ぎているはずだ。 
年令を思わせぬ若さで、
ひっそりと、ひとり暮らしを送っている。
何か軟らかいものが良いだろうと、
途中で、特に油を抜いて貰った 「うなぎ」の出前を頼んだ。
突然訪ねた私におもとさんはびっくりして、
そして相好をくずして迎えてくれた。
おもとさんは、たくさんの足袋の繕いの最中であった。
話をしながらも、おもとさんは、セッセッと足袋の繕いを止めない。
ずい分と繕いを重ねた古い足袋ばかりだ。 
こんなに繕った足袋では、もう穿けないのではと、
私が言うと、おもとさんは、
いきなり声を立てて笑い
 「オホホ・・・これはもういくら私でも穿けません。
ただ長い間お世話になった足袋ばかりです。
使えなくなったからと言って、
汚れたまま、破れたままで捨てるのが、
申訳ない様な気がしましてね、
こうして繕ってから捨てるのです。」 
しばらくして届いた「うなぎ」を、おもとさんと一緒にたべた。
久しぶりのご馳走で大変おいしゅうございましたと言ってくれた。
おもとさんは、熱いソバ湯をとき
 「うなぎ」に付いて来た粉サンショを振り込み、
脂の口がさっぱりいたします、
と言って出してくれた。 
湯気の中にサンショの香りが爽やかだった。
陽溜りの片隅に、ひっそりと水仙が咲いていた。

四国村マップカタログより