囚中八首 広沢安任
是我当年政事堂 
ここはわが会津藩の藩邸であったのに
豈図忽地作囚墻 
一変して牢獄になろうとは思いもよらぬことであった
乘除何数看如此 
すべて運命であろうか
不堪断腸還断腸 
はらわたがちぎれるほど悲しい
曽携彩筆此 翔 
かつて私は事務を執りここを飛び回っていた
今日誰憐前度郎 
前にいた私を憐む者はだれもいない
觸眠宮容都不異 
眠にふれる住まいは昔と変わらないが
夜来月色独凄涼 
夜の月光が心を射すように淋しい
一日来投堅鎮中 
有る日 私は投獄された
無辜有罪付蒼穹 
何の罪も無いのに有罪として投獄された
丈夫名節重於死 
男子の名誉と節操は死よりも重い
任汝縦横論此躬 
汝ら獄卒にわが身をまかせよう
決死留時豈要生 
江戸に留まるとき死を覚悟し生きようと思わなかった
君冤欲雪意中盟 
君公の無実の罪をそそがんと心に誓った
奉書府下尚無報 
そのために大総督府に行き嘆願書を奉ったが報いられることはなかった
身若芥塵未可軽 
わが身はごみのように小さいが、まだ軽んずることはできない
東走西馳十二年 
東奔西走すること十二年に及んだ
閲来世態与人縁 
世の中のことを知り尽したが
唯餘一事未経過 
ただ一つ達せられないことがある
今日就囚応是天
 捕らわれの君公の無実を晴らすことである